映画「僕の帰る場所 ”Passage of Life”」

先日、ポレポレ東中野で上映中の「僕の帰る場所 ”Passage of Life”」を観て来た。以前、試写会で観る機会があり2度目の鑑賞になった。10月6日の公開以降、ミャンマー関係の人たちを中心に賛辞の書き込みが毎日のようにSNSに上がっている。

日本は先進国と呼ばれているが難民認定が厳しく、事情があり祖国を脱した人たちに対して冷たい国と言われている。そのような事情もこの映画を語る上で重要な要素ではあるが、「ミャンマー」や「難民問題」など社会性を抜きにして人間物語として誰にでも薦めたい映画だと思っている。出来れば映画を観て感じたことを考えて家族や友人に話をしてほしい。頭で感じたことや思っていることを言葉や文字にすることは大切だし、そうすることでより深く物事を考えるキッカケになる、この映画はそう言う作品だと思う。

私は2005年からミャンマーを訪れ写真を撮り、写真展を開催したり写真集を出版している。映画と写真の違いはあるがカメラを通して表現する点で共通する部分は多いと考えている。

試写会で観たとき、語弊があるかも知れないが「(彼らにとって)普通のことを淡々と描いている映画」と感じた。事前の説明で”日本に住むミャンマー人家族が祖国へ帰る話”と聞いており、自分の知る在日ミャンマーの人たちの背景や事情から頭にいくつかのストーリー展開を予想してみた。ミャンマーをテーマに写真作品を作っている身としてはこのような予測をするのはある種の訓練のようなものだ。しかし、映画が始まると「あまりにも私の想像が及ぶ設定で淡々と進む展開」に最初は正直拍子抜け気味だった。しかし話が進むにつれ、自分がその場に居るような感覚になり気付くとすっかり引き込まれていた。派手な演出は皆無でBGMすらほとんどなく見たままがそのまま伝わって来るリアリティ。自分が予想していたよりもはるかに「自然」だった。映画だから撮り手の意図、目的は存在しているのだがそれを忘れてしまうような作りになっている。特に、ヤンゴンのシーンは足しても引いてもいない素顔のヤンゴンに思えた。自分の足で歩き眼で見て身をもって感じたそのものに極めて近かった。もしこの映画の撮影現場に自分が居たとしたら、似たような場面を自分のカメラで撮影していたと思うくらいだった。自分の写真集は観た人がどう感じるかわからないが、私は撮り手である自分の気配を出来るだけ消した写真を撮りたいと考えている。写真を撮る行為がそもそも自己表現であり、極めて難しいことだと分かっているが、ひとつの理想型だと考えている。この映画から伝わってくる「リアリティ」からその理想に近いモノを感じ、それが私にとって臨場感や既視感に繋がっているのだろうと今は理解している。

自分がミャンマーで撮って来たのは「普通の人たちが普通に暮らすミャンマー」だ。軍事政権から民政移管が進み経済成長の続くミャンマーたが、最近はラカイン州の問題が大きく取り上げられ、国際社会の批判を受けている。その問題は問題として取り組み進めていかなくてはならないことだが今の時代、ネガティブなニュースほど強く広がっていく。出来るだけ沢山の人たちがミャンマーを訪れて欲しいと思っている一人として、「僕の帰る場所 ”Passage of Life”」はミャンマーと日本をつなぐ作品なのだと思う。

映画がポレポレ東中野で公開される少し前、友人を介して主演のカウンくん、テッくんそして母親のケインさんに会い写真を撮る機会に恵まれた。映画の撮影から4年経ち2人とも大きく成長していた。写真を撮った後に近くのファミレスに行き彼らの話を聞いたが、会話の内容は映画のことよりもうすぐ運動会とか、午後に友達が家に来て一緒にゲームするとか普通の会話がリアリティがあり私には興味深かった。

ポレポレ東中野の地下に降りる途中の壁にその時私が撮った写真と、私のカメラを使いカウンくんたちが撮った写真が飾られている。子供にとって4年はとても長い時間で映画は遠い過去のものになっているかもしれないと想像していた。

映画を観た後パンフレットとメイキングDVDを購入した。パンフレットは監督やプロデューサーのコメントや様々人たちの文章が掲載され読み応えがある。映画のパンフレットと言えば象徴的なシーンやキャストの簡単な紹介だがこのパンフレットは読むだけでも価値がある。メイキングDVDも撮影に入る前から始まる展開で、撮り手の意識に興味がある私にとって面白く最後まで一気に観た。そしてDVDのラストシーンを観たときカウンくんにとってこの映画は過ぎ去った過去で無く人生の一部になっていることがわかりとても嬉しい気持ちになった。

これを書いているとき、ポレポレの上映期間延長の記事をSNSで見た。「それは、当然そうなるだろう」と思った。また日本全国各地の映画館で上映も始まり、海外の映画祭などの受賞、ノミネートも続きより多くの人たちが観る映画になりつつあるのは嬉しいことで、藤元監督、渡邊プロデューサー始め制作に関わった方々に感謝の言葉を送りたい、そしてこれからの活躍が楽しみだ。

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