ギャラリー冬青は2018年10月がフランス人写真家Patrick Taberna氏“夏の名残り-L‘arriere saison”、11月がスイス人写真家Jon Erwin Staeheli氏の“SAND&SALT”が展示されていた。2人とも冬青で複数回展示されている常連の作家であり、彼らの展示は何度か拝見させてもらっている。
そして、今回は自分なりの視点、意図を持って各々のトークショーに参加することができた。トークショーはPatrickさんは大木啓示氏、ErwinさんはPhotographer HAAL氏が対談した点も興味深かった。大木さんもHAALさんも冬青で展示している写真家で2月の香港PhotoBook fairや10月の台湾フォトで一緒に過ごし写真やアートについて話をし、彼らの作品はもとよりアートに対する考えや表現なども聞いていたので欧州の写真家との話は聞き逃せないと思っていた。
トークショーの詳しい内容は同じく冬青で活躍している写真家北桂樹氏がアートの文脈・視点でまとめられているので私も読ませてもらっている。
戦略会議 #02 作家づくり/展示めぐり・作家研究 パトリック・タベルナ 夏の名残
戦略会議 #02 作家づくり/ ヨン・アーウィン・シュタヘリ 《SAND & SALT》ートークセッション感想。
私自身が感じた欧州で活躍している写真作家の考え方、作品作りの姿勢などは今後の自分の作家活動に少なからず影響を受けることになるだろうと思い記しる必要がある。
2018年10月26日
Patrick Taberna氏トークショー
対談:大木啓示氏
Patrickさんにとって、作品は見せることではなく提案することであり、見る人にタネを撒き観た人が育ててくれる写真でありたいと考えいてる。そして作品化は言語化して文脈で組み立てることであるとのこと。
彼は家族を撮って作品にしているが所謂「家族写真」に見えない、説明されずに観るとロードムービー的な作品に思えるかもしれない。もちろん個々の写真の完成度は高く風景やスナップを交えた作品としても充分成立しているが、被写体として家族を撮っていると聞くと興味と疑問が湧いてくる。そして気付くとPatrickさんの世界に引き込まれている。
本人の言葉を借りると「家族を家族の関係で撮影すると他者が入り込む余地が無くなり、見せることで終わってしまうので観た人がストーリーを描け入り込む余地を残し提案する作品にしている」とのコメントだった(私なり理解なので主観が多少入っている)。
具体的な作品作りに関して2つの話題があった。
*作品のセレクト・構成方法
*フィルムにこだわる3つの理由
*作品のセレクト・構成方法
1)撮影→現像→プリント
2)箱入れ→しばらく忘れる
3)セレクト
ここで第三者の目(家族やキュレーター)を取りれて作品化する。
家族が写っている写真は最初に本人に見せる約束になっておりOKならセレクト候補箱へ入れ、NGになってしまった場合、写真としては良いと思うので時が経ちNGからOKになることを期待している保留に入れる。
ここで1)と3)のプロセスは誰もが作品化のときに行うがPatrickさんのポイントの1つに、2)の「しばらく忘れる」点にあると思う。彼のコメントで「多くの写真家が同様にしていると考えているが」の前置きが有ったが、「箱に入れてしまう」ような明確行為を伴うことが重要だと感じた。私自身も撮影、現像、ベタ作成からワークプリント(セレクト用)までは一気にするが、セレクトになると少し時間(私の場合2~3ヶ月程度)を置いた方が好ましいとは考えており、これは撮影時の高揚感(時には残念感)の様な気持ちが冷めて平常に戻るまでに必要な時間だと思っている。
なのでPatrickさんの話を聞き深く同意し納得した点で有った。
もう1つのポイントがセレクトの過程で第三者の目を取り入れ作品化することになるが、この点は様々な考え意見があるだろう。自分は基本的なセレクトや順番を決める時は基本的に自身で考えるようにしている。もちろんギャラリー冬青で展示する時は高橋社長に相談し意見を取り入れセレクトし並べる順番も決めている。どの程度まで取り入れているのか詳しい話は聞かなかったが意見を取り入れているのであって委ねていることではないのだろう。
トークショーの後に質問で「作品作りにデジタルカメラを使うことは無いのか?」とあったがPatrickさんのスタイルだとフィルムになるだろうと思ったが、彼の答えもその通りだった。そして。フィルムにこだわる理由についての答え。
*フィルムにこだわる3つの理由
・エンジニアでデジタルの仕事をしているのでアナログのフィムルを使うことでバランスを取っている
・写真を見て忘れるプロセスが大切でデジタルだとすぐ見て気に入らないと取り直し1日中繰り返すことになり家族との楽しい旅が台無しになる
・光で表現できるプロセスが大切。撮影、焼き付けで光をダイレクトに感じることができる
私も何度かフィルムにこだわる理由を聞かれたことがあるが、ここまではっきりと挙げて説明はできていなかったと思う。今月のErwinさんもそうだが言葉でしっかり話をしていて改めて言葉の大切さを感じた。
最後にPatrickさんがテキストにも書いており、トークでも何度か出て来た「中年の危機」は、私も彼と似たような年齢なので克服した経緯などは聞き逃すわけにはいかない。彼にとってやがて訪れる好ましくない状況に悩むようになりそれが作品作りにも大きく影響し、カラーの撮影から若い頃に撮っていたモノクロに戻ったそうだ。その撮影、作品作りの過程である朝起きた時に奥さんに「中年の危機は終わったよ」と宣言し、撮影もカラーに戻り今回の展示につながっている。経緯を聞き改めて作品を観ると危機を乗り越えて来た安心感というか強さを想像した。
2018年11月9日
Jon Erwin Staeheli氏トークショー
対談:Photographer HAAL氏
Erwinさんにとって、作品は観た人たちの想像を良い意味で裏切り驚かせたいと考えていると話していた。今回展示されている作品は何が写っているのか何処なのか何時撮られたのか分からない、中に3点だけ鳥の死骸?が写っている。タイトルは“SAND&SALT”直訳すると「砂と塩」となる。詳しい作品の説明はここではしないが、ある意味Patrickさんとは対極とまではいかないが違う方向に存在しているのがわかる。
トークショーの最初にErwinさんの経歴が紹介された。15年間土木エンジニアとしてトンネル、橋、下水管など作ってきた。今でも年に数カ月はオーストラリアに行き穴を掘りルビーなどを掘っている。
SAND&SALTと写真集になっている前回展示の「迷宮 Wandering」ともに人の姿は写っていない。その点にういてHAALさんから質問が有り、その答えを要約すると「アメリカのキューレーターに人を入れない方が良いと言われ、それからそうしている。でも私は人が好きなので、観た人が人のいない写真から人を自由に想像できるのが良いと考えている」とのことだった。
また、今回の展示では「鳥」、前回の迷宮は「子羊」と動物がともに横たわっているが動物について質問もあった。するとErwinさんの答えは「シリーズを撮影しているとなぜか動物が私の前に現れる」とのこと。
さらに、シリーズを作り始めるきっかけや動機について話が及ぶと「プリントを見ているときに、自分の背後、肩越しからあれこれ指摘して、最初は否定するが段々とそう思えてくることがある。それがシリーズにつながる」と、ここまで聞くととても霊的(スピリチャル)だったり概念的な作品つくりを想像してしまうが、展示されている彼の美しい作品を観るとそれが本質にあるとは思えない。
やがてもう一つのキーワード「異世界」が出てきた。そこには「現実の景色にも異世界を感じて撮影することができる(迷宮の表紙の霧の向こうに異世界を感じる)。誰もいない、孤独になる、ここは何処なのかも恐怖を感じた時に異世界を感じる」とあり、さらに「未知なものに恐怖を感じるのが生き物の本能でありそこに興味を感じ作品作りにつながる。ハッピーな時は写真は要らない」との話があった。
彼の作品から共通して感じていた「静寂」は「異世界」に繋がっているのだろうそれを表現する中で、彼が歩んできた人生の「土木」が深く関わっていると思える。
最後に写真を表現方法として選択した理由に話がおよぶと「暗室作業に惹かれた、体をを使うこと、三脚を担いだりツールを作ったりが好きだ。PCを使う作業は2時間が限度、暗室は8時間でも大丈夫」との答えだった。
トークショーの数日前、私はErwinさんと竹橋にある国立近代美術館へ行った。日本の美術館を観たいとの希望で私が案内役になった。その時に暗室Workについて話ができた。彼のプリントはアンセルアダムスが提唱したゾーンシステムがベースになっている。また、暗室に入るときは出来る限り外部と遮断し、音も無い状況で集中出来る環境を優先しているそうで、プリントの手法は感覚的より8割くらいは薬品管理、温度管理など理詰めで追い込み、残りの2割はその場の感覚を大切にして仕上げる。これは私の暗室スタイルと共通する部分が多く更に、薬品やフィルム、印画紙などの話を地下鉄車内まで続いた。
二人の欧州作家の話を聞き「言語化」、「表現方法」、「プロセス」など自分の作品つくりと関連して考える良い機会になり、私のプリントコレクションが増えることも嬉しい。プリントを見ると記憶・記録だけでなくダイレクトに刺激をもらうことができる。
最近の高橋社長のブログにPatrickさんとErwinさんの対談や冬青社より写真集についての話もでているようで楽しみだ。
写真はErwinさんが近美の隣でPentaxLXを取り出し数枚撮影していた。このカメラは40年間故障知らずで大切なカメラだと話していた。